今まで、四方田犬彦の本を読んだことがなかった。どういう本を出している人かもわからなかった。映画史を中心にした執筆で知られる著者であるのに、それらの本を未読というのは、いち映画ファンとしては恥ずかしいかぎりである。その前に、四方田という名字の読み方を知らなかった。下の名前である犬彦にしたって、そのまま「いぬひこ」と読んでいいものかどうかもはっきりしない。いぬひこ。阪神の元監督に、吉田義男(よしだよしお)という方がいたけれど、ネーミングの意図を計りかねる点においてはおおむね近いものがある。ただし、「四方田犬彦」はあくまで筆名らしいので安心しました。もし親が息子に「犬彦」と名付けたのだとしたら、それだけでなんだか切ない気持ちになってしまう。今回こうして彼の本を手に取るきっかけになったのは、最近になって本人の講演を聴いたためである。 四方田はおもしろかった。実に活発で、元気のいい生きものだった。他