イスラム教の開祖ムハンマドの生家から子孫の墓に妻の家まで、次々と遺産を破壊して巨大ホテルやモールの建設を進めるサウジアラビア政府。カトリック教会の中心地バチカン市国ではあり得ないようなことが、なぜメッカでは許されてしまったのか──。 「これはもうメッカではありません。ラスベガスのようなものです。メッカの歴史は、ブルドーザーやダイナマイトによって破壊されてしまいました」 こう話すのはサウジアラビアの著名な建築家サミ・アンガウィだ。だが、彼のように、イスラム界で最も神聖な地「メッカ」の大規模な都市開発やホテル開発を公の場で批判する知識人は数少ない。 アンガウィの父親は「ムタッウィフ」と呼ばれる巡礼者を案内するガイドだった。そして彼自身も子供の頃、巡礼者たちがモスクに入るときに脱いだ履物を預かって、小銭を稼いでいた。 そんな彼は、「メッカがいま、巨大なテーマパークに急変しつつある」と悲嘆する。