さて、「論壇」(の一部)にはびこる「アジア主義」再評価のトレンドを効率的に叩くためには、同じく近年再評価が進んでいる別の人物に対する批判から始めるのがよいだろう。竹内好である。 竹内は「日本人のアジア観」(『竹内好評論集 第三巻 日本とアジア』、筑摩書房、1966年)で次のように述べている(強調は引用者による。以下同様)。 朝鮮の国家を滅ぼし、中国の主権を侵す乱暴はあったが、ともかく日本は、過去七十年間、アジアとともに生きてきた。そこには朝鮮や中国との関連なしには生きられないという自覚が働いていた。侵略はよくないことだが、しかし侵略には、連帯感のゆがめられた表現という側面もある。無関心で他人まかせでいるよりは、ある意味では健全でさえある。(竹内好、『日本とアジア』、ちくま学芸文庫、1993年、p.95) 私はこの文章を初めて読んだとき、右派の歴史観に対して感じるよりも遥かに切実な嫌悪が込み