ミリアム・ハンセンは、主著『バベルとバビロン』(Babel and Babylon: Spectatorship in American Silent Film, Cambridge, Mass.: Harvard univ. Press, 1993)で知られる映画研究者、文化社会学者である。これから紹介する「初期映画/後期映画――公共圏のトランスフォーメーション」(初出はScreen誌1993年、修正版の単行本への再録は95年)は、古典映画の時代(30-60年代)を挟むプレ/ポスト古典期の相同性を、両者の形式上の相違を越えて「公共圏」の変動という観点から捉えた論考だ。興味深い点のひとつは、70年代までに支配的だった記号論的、あるいは精神分析的な映画理論からの脱却にあたって、観客性(spectatorship)と公共圏(public sphere)という概念枠組みを採用し、後者についてはオ