鷲田清一 わしだ・きよかず − 1949年京都市生まれ。京都大学文学部卒業、同大学院文学研究科博士課程修了。関西大学教授等を経て、現在は大阪大学大学院文学研究科教授。専攻は哲学、倫理学。 著書に『現象学の視線』『モードの迷宮』『顔の現象学』『時代のきしみ』『老いの空白』ほか多数。 「自然」というのは、なんとも奇妙な観念である。 「自然」というと、ひとはさしあたって、人間の手の入っていない地上のどこかをイメージする。植林されていない山とか、道路の敷設されていない高原とか、深海に神秘をたっぷりと湛える大海原とか、前人未踏の秘境とか。 これは一般のひとたちのイメージであるにとどまらず、学問の分類にもあてはまるのであって、いわゆる理系と文系、つまり自然科学と人文・社会系の科学の区分もまた同じ理屈でなりたっている。人間の精神の関与が認められないものを対象とする学問と、人間の精神が関与してでき