「拈華微笑」の逸話とは、どなたもご存じの通り、次のようなものです。 「世尊、昔、霊山会上に在って花を拈じて衆に示す。是の時、衆皆な黙然たり、惟だ迦葉尊者のみ破顔微笑す。世尊云く、「吾に正法眼蔵、涅槃妙心、実相無相、微妙の法門有り。不立文字、教外別伝、摩訶迦葉に付嘱す」。 これは『無門関 (岩波文庫)』から引いたのですが、西村恵信氏による訳注には次のようにあります。 この話は中国の偽経である『大梵天王問仏決疑経』拈華品第二に見える。 中国の偽経というのは、インド原典がなく中国で創作された経ということです。 これを読んで私は仰天したのです。 不立文字、教外別伝と言って、経すなわち釈尊の説法の記録(とされるもの)に依拠しないことを標榜する禅宗が、仏教としての正統性を担保しているのは、この「拈華微笑」の逸話に他なりません。 それなのに、その起源神話を記した文献がこともあろうに偽経だったとは! もち