著: 藤本和剛 冬が持ち時間を使い切ろうとしている。 外周の桜が、葉を落とした頼りない姿に飽きていた。モクレンの蕾は微かな南風と遊びながら、根明な顔のスイセンが朝礼するのを見下ろしている。浮島の浅瀬をしきりに出入りする鴨はどれも楕円(だえん)形にふくふくとしており、緑青色に煌めく尾羽すら、このシックな住宅街の真ん中にある公園に似つかわしく見えた。 情景描写もこの通り、徒然なるままに優雅になってくる。そら兼好法師もこの阿倍野区に庵結ぶわ、なんて考えながら、閑静が極まった万代池公園をぶらつく。後ろ手に組んでいい調子で石橋を渡っていると、噴水が噴水の見本のような形で盛大に開いた。びっくりしたのが妻子にバレないよう、自分は鯉を集める振りをした。 「今日は阿倍野区のハシからハシまで歩きます」 立春の朝、寝起きでスウェット上下を同時に脱ぎながら号令したオトンに向き直った妻子は、そのまま不思議そうに上着
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