「泥棒も仲間内では悪党ではない」という英語のことわざがある。日本でいう「盗人にも仁義あり」で、およそ人の集団なら仲間内の仁義礼智信なしに成り立たない。中国古代の大泥棒、盗跖(とうせき)はこう語る▲「何をするにも『道』はある。……まっ先に押し入るのは『勇』、最後にズラかるのは『義』、ことの成否を見抜くのは『知』、分け前を公平にするのは『仁』よ。これらがちゃんとできずに大泥棒になれたやつなんてまずいねえよなあ」▲盗跖が孔子(こうし)の偽善性をこっぱみじんに論破したとも記す「荘子(そうし)」にある話だから、真偽のほどはうけあえない。さてこの“仁義”のしばりを解きほぐし、組織犯罪の解明に役立てようという日本版の「司法取引」が今月から始まった▲容疑者や被告が他人の犯罪の情報提供をすれば、見返りに不起訴処分や軽い求刑になるこの制度である。米国映画では自分の犯罪行為の取引も見るが、日本版は他人による贈収