筆者が廃墟に興味を持つようになったのは、1988年2月東京・銀座のINAXギャラリーで開催された、宮本隆司氏の写真展「九龍城砦」を見学してからである。この写真展では、まだ当時現役として利用されていた香港・九龍城の内部を、クールなモノクロ写真で淡々と紹介したものであったが、天井を這うダクトと水道管、壁を埋め尽くした電線、迷路のような廊下といった非日常的な光景には一種異様な迫力があり、たいへん強い印象を受けた。この写真展に感化され、筆者も「廃墟」すなわち「日常生活から打ち棄てられた風景」に興味を覚えるようになる。 ところで、当時それほど話題にならなかった廃墟趣味ではあるが、その後廃墟の写真集が相次いで出版され、廃墟特集を組んだムックも発売される等、廃墟探索が一種のブームとなってきてしまった。そのうち、心霊スポットや肝試しスポット等を面白半分に紹介するものまで出て来るに及び、現状の廃墟趣味が以前