第80期名人戦七番勝負(毎日新聞社、朝日新聞社主催、大和証券グループ協賛)は、29日の第5局を渡辺明名人(38)が制し、4勝1敗で3連覇を果たした。渡辺が研究の深さと広さで圧倒し、挑戦者の斎藤慎太郎八段(29)が持ち味である終盤力を発揮する余裕を与えなかった。 「駒得は裏切らない」(森下卓九段)。多くの棋士が支持するこの言葉だが、今期の渡辺はその逆を行き、駒を損する間に優位を築く指し回しが目立った。 第1局では、あえて香車を相手に与える代わりに攻撃態勢を築いて快勝。第4局でも同様に香車を取らせ、大駒の飛車まで取られる間に自玉を捕まりにくい中段に逃がした。実戦例のない形だったが、渡辺にとっては「この形ならこう指すものという認識」と、独自の“定跡”の範ちゅうだった。斎藤は中段玉の作戦に「どの手を指せばいいか分からなくなってしまった。(玉の堅さを)読み切れていなかった」といい、状況判断の差が結果