杉浦日向子さんが、逝った。 天上のそば屋で憩いを愉しんでそばが好きというよりも、そば屋が好き、だったという。あまりにも若すぎるお別れ。でも、杉浦さんのスタイルは、確実に支持されています。 杉浦日向子さんが、逝った。 私の印象としては、ソバ食いというよりも、江戸の残照を丁寧に拾い集めて、一地方都市としての東京を、散歩者の視点で活写した逍遙人であった。 その遺作には、巷に溢れかえる既存のガイド本を孫引きしてでっちあげた、粗悪な東京ガイドとは暸かに一線を画して、いかにも慣れ親しんだ地元を足取り軽やかに案内してくれるかのような、軽妙洒脱なエッセイが多い。 ところで、逍遙の読点、すなわち散歩の休憩地点としてのソバ屋をガイド本として編成したのは、画期的な企画であった。名作「ソバ屋で憩う」「続・ソバ屋で憩う」は、そもそもごく狭い地域で認知されていた「Ourブーム」を人口に膾炙せしめ、全国区の歓びとして広