2019年1月29日、小説家で批評家の橋本治氏が亡くなった。その仕事のひとつに、日本美術史を独自の視点で読み解いた『ひらがな日本美術史』(全7巻)がある。シリーズが完結した2007年に、批評家の浅田彰氏との間で交わされた対談を、追悼の意を込めて転載・公開する。 私の中に「奇」はない 浅田 お久しぶりです。二十五年くらい前に、『広告批評』が紀伊國屋ホールで開いたシンポジウムで、オブザーヴァーと称して隣どうしに座らされて以来ですよね。 橋本 あれは何だったんですかね。僕はオブザーヴァーになってくださいって言われた記憶もないんですよ。客席にいてくださいって言われて、何か最後に言ってくださいって言われて、すごく過激なことを言ったという記憶だけはあるんですけどね。 浅田 ぼくはそのとき、橋本さんのデビュー作「桃尻娘」が雑誌に掲載されたときからのファンだと言ったんですけど、あれ以来、橋本さんは、元祖ひ