内田樹氏の『私家版・ユダヤ文化論』の後半を読む。『文学界』連載中少し前半部分を読んでいたものだが、その問題意識と方法論にいささか疑問を感じて、読み進むのをためらっていた。 氏の論述は多彩で、よく言えば光彩陸離たるものであるが、極めて深遠な洞察もあれば、いささか思いつきで筆を走らせたところもある、いわばまだら模様と言える興味深い作品に仕上がっている。例えば、反ユダヤ主義者はユダヤ人に魅せられている、その愛を強化するために迫害に及ぶのだ、といった主張。確かにそのような例もあるかもしれないが、それをもって反ユダヤ主義の本質とか一般現象と主張するにはやや無理があろう。一般に、強い憎悪には敵対者へのアンビヴァレントな感情が付きまとう事が多い、ということはあるかもしれない。敵対性が、しばしば相似性、鏡像的分身関係に基づくこともよく知られている。しかしそのような心理の一般論をユダヤ人問題に「適用」する事