アナキズムというと「無政府主義」と訳されるように国家を転覆するラディカルな思想であるように捉えられたり、あるいはヘイマーケット事件やサッコ・ヴァンゼッティ事件のようにアナキストには爆弾テロや強盗のイメージがなすりつけられていたりする。しかし本書はマルセル・モースの『贈与論』やデヴィッド・グレーバー、ジェームズ・スコットといった文化人類学者の研究から、国家から逃れて生きる人々の「暮らし」に焦点を当ててアナキズムを論じる。筆者は鶴見俊輔の言葉を引用してアナキズムを「権力による強制なしに人間がたがいに助けあって生きてゆくことを理想とする思想」(p.24)と定義し、アナキズムの原点である相互扶助社会の建設(の挫折)と国家の支配に対する抵抗について考えていく。 アナキズムは第一にあらゆる権力による強制に対して抵抗するが、権力は国家権力のみならずあらゆる関係に内在するものだ。権力による強制は国家のみに