映画「ワールド・トレード・センター」の宣伝を見て思うのだけれども「セプテンバー・イレブン」を語るのになぜアメリカ人はいつも「消防士」の物語を持ってくるんだろうか。 「命の危険も顧みずに現場に飛び込み、救助活動を行った」というように、少なくともアメリカでは、消防士は「勇気」の象徴であり、命を恐れない英雄として表象するようだ。でも、あの事件を「消化」するのに勇気とか、英雄とかを持ってこざるをえないアメリカ人はやはり屈折しているのかもしれない。ほとんどの消防士は、英雄云々なんて考えていなかったと思うからだ。 あの時ビルがあんな風に粉々に崩れるなんて誰も思ってなかった。消防士にもビル全体が崩落寸前であることなんて伝わっていなかったし、退去命令も伝わらなかった。彼らがおそれを知らずに勇敢に振舞った理由は簡単だ。彼らは単に「知らなかった」のだ。彼らはアメリカを救った英雄というよりは、その他の死亡者と