2002年12月維持会ニュースより ローマ賞の周辺=ドビュッシーの場合= 松下 俊行(Fl) フランスに於ける作曲家の登龍門として、ベルリオーズ・グノー・ビゼー・ドビュッシー・イベールなど数多の作曲家の伝記に必ず現れる「ローマ大賞」受賞。その一方でサン=サーンスやラヴェル・フォーレそしてプーランクなど受賞を果たさずとも大成していった一群の作曲家もいる。その賞の意味と、受賞者の栄光と悲惨との実態を、ドビュッシーの大賞受賞の周辺から見てみたい。 *落日の栄光=ある受賞者の末路= この稿を書くにあたり僕が最初に行なった事は、乱雑極まりない書庫の中から既に絶版になったある文庫本を掘り出すという作業だった。バルザックの『従兄弟ポンス』……姉妹編の傑作『従姉妹ベット』に隠れ、知名度と内容に於いてやや劣るが1847年に書かれたその中編小説は、とある貧しき老音楽家を主人公としている。舞台は1844年10月