1999年、カープ入団直後の新井。大学通算2本塁打ながら……「将来は4番に」「空に向かって打つ」と己の可能性を信じていた。 広島東洋カープの二軍を指揮する水本勝己はこの27年間、多くの“奇跡”を目撃してきた。 夏が終わりに差し掛かったころ、瀬戸内海の水路である大野瀬戸と宮島を正面にのぞむ廿日市市の大野練習場で会った。2階の監督室には大きなガラス窓があり、室内練習場を見渡せるようになっている。取材中、水本はその窓に背を向けて座っていたのだが、背後が気になって仕方がないようだった。 練習が終わったばかりのグラウンドには誰もいなかったが、やがて1人、また1人と選手が姿を現した。それを見ると水本は相好を崩してこう言うのだ。 「僕が嬉しいのは、コーチも誰もいないのに練習できるようになってきたこと。最初は嘘でもいいんです。最近はそれをしない子が増えてきた。恥ずかしいというか……。新井でもそうですし、黒