宮藤官九郎の書く脚本は、いつも他の誰にも似ていない足跡を残す。例えば朝の連続テレビ小説『あまちゃん』は、ヒロインの幼少期から始まり、成長し結婚して母になる「女の半生記」という朝ドラの黄金律を完全にはみ出している。それは天野アキという1人の少女が16歳から20歳になるまでのたった4年を描いた物語なのだ。 主人公天野アキは物語の中で結婚も出産もしない。だがそのたった4年の青春の1ページの中に、80年代に青春を送り夢破れた彼女の母親、春子の人生が回想として映る。そこには朝ドラの定型である「女の半生記」が主人公の母親の歴史として織り込まれ、同時に80年代に始まるアイドル・サブカルチャー史があり、そして2011年、3・11という同時代の巨大な社会的カタストロフにたどり着く。 海外のティーンネイジフィルム、ガールズムービーを見渡しても、これほど奇妙で定型を外れた、そして同時にこれほど見事な構造を持った