「さては、この為朝が一言に感服し、和睦をしたものとみえる。世間では奸智術策の巧みな人を虎狼に例えるが、今、このありさまを見ればこの狼の子たちにも義や信と言うものがあるに違いない。争い殺し合いをしてまでのことでは無かったであろう。わかってくれたか。」 と手を伸ばして、うなじをなでてやると、狼の子らは尾を振り、耳を垂れ、従順な様子である。 歩き疲れた足を運ぼうとする為朝の前を道案内をするかのように狼の子らは行き、為朝もそれについていく。 十五六町も歩いたころであろう、突然二匹は何かに驚いたのであろう、尻尾を巻いて為朝のところへ走り戻って来たのだった。 為朝、不思議に思って見ていると、茂ったススキの茂みの中から、一人の男が現れた。そのいでたちは頭に鹿皮の頭巾、身には頑丈そうな衣、脚には動物の皮で出来た脚絆を付け、長刀を腰に佩いた、身の丈六尺、年の頃は三十路余りであろう。山の猟師なのであろうか、そ