早めに夕飯を食べたら、20時過ぎたばかりのおかしな時間に睡魔に襲われてしまい、しばらく横になっていた。 まどろみの中で出どころのよくわからない音をずっと聴いていた。何かが硬いものにぶつかるような、かつ、かつという音だ(怪談ではない。念のため)。 22時ごろに起きて暗闇を広げる窓ガラスを見ると、部屋の光に吸い寄せられたのかカメムシが一匹、こちらに腹を見せながらガラスをよじ登っていた。 部屋の中に入りたいのかもしれないがそうもいかず、足をかけているガラスはつるつるなのでずっとはりついていることもできなくて、やがて、力尽きたように落下していく。かつん、と音がする。これで正体が分かった。 速水御舟という日本画家が、『炎舞』という絵を描いている。 数匹の蛾が闇の中で、燃え上がる炎に誘われて舞っている絵だ。光景の美しさももちろんだが、やがて近いうちに火の一端が虫の羽をかすめて、焦がして呑み込んでいくの