私が繰り返し読む小説の書き方本は3冊あるのですが、その中の一冊は辻邦生先生の『言葉の箱』です。 何とCDまで持っている! だって好きなんだもん! で、肝心の中身はというと、「先生、そりゃワタシにはちょっとムリ」って感じの内容もありますが、小説っていいものなんだなあ、という気持が素直に静かに湧いてきます。 私は書くことが苦にならない、書いていれば楽しいというタイプではないので、初心を忘れまくっているときには、必ず手に取ります。 ぼくが、旧制の高等学校でドイツ語の勉強をしておりましたころ、岩波文庫の『魔の山』とか『ブッテンブローク家の人びと』を訳した望月市恵という先生がおられました。(中略)その望月先生が、小説家というのは本当にしようのないもので、初めから終わりまで同じことっきり言いませんねえ、と皮肉混じりに言われたんです。 ぼくも小説家になってから、いろいろと新しい試みをずいぶんしてきました