圧倒的な美や強烈さ—たとえば神秘的な自然だったり個性的な被写体—ではっとさせるものではなく、センセーショナルでもない。被写体は彼女の日常で、彼女が惹かれるものを切り取る。だが、 というか、だからこそ誰もが「どこかできっと見ている光景」の写真は、切なさと懐かしさを漂わせ、見た人をその人の過日に引き戻す。 彼女、とはA-CHAN(アーチャン)ことヤマザキあゆみ、写真家だ。彼女ほど過日の匂いを漂わせる写真を撮る人を私は知らない。それから、A-CHANが写真家として、一人の人間として特別な存在であるのは、世界で最も重要な現代写真家の一人、ロバート・フランク(91)とともに10年間の時を過ごし、彼の写真と人生に携わり続けてきたからだろう。 スポーツ少女「一人でできるものが欲しかった」 「ダンキン・ドーナツの帽子を被ってたんですね。だから、この人はきっと、ユーモアのある人だって」。自身初の写真集『Pi