どうやってこの傑作の興奮を案内しようかと思っている。細部はずいぶん忘れているだろうから、ともかくは思いつくままのところを順に書いていく。マンガである。劇画である。それも八冊の長編だ。吸い寄せられるように一気に読んだ。 作者の安彦良和は『ナムジ』(徳間書店→中公文庫)で古代史と神話史の融合を試みて、その才能が話題になった。機動戦士ガンダムのキャラクターデザインも担当した。その才能が昭和史に挑んだと想像してみてほしい。 昭和史といっても最も矛盾に満ちた季節を扱っていて、満州事変、上海事変、二・二六事件、国際連盟脱退などが連続的に勃発した直後からノモンハン交戦までの一、二年に絞られる。日本が最も過剰に沸騰した時期、日本がついに舵を切りそこなった時期である。そこに、とんでもない人物たちの、とんでもない物語が展開する。絵もいいしプロットもうまいのだが、なにより構想にひそむ思想が異色だった。そのことは