「武漢」をあえて強調する人たち 閉じられた店のシャッターには、臨時休業を知らせる貼り紙があった。 「武漢風邪で暫くお休みします」 東京都内の喫茶店。特に贔屓(ひいき)にしていたわけではないが、駅前の便利な場所にあるので何度か足を運んだことのある店だった。 「武漢風邪」の文字が網膜に焼き付いて離れない。 ああ、そうだったのか。あなたも、そうだったのか。 香ばしいコーヒーの匂いも、クラシカルな内装も、寡黙で誠実そうな店主の顔も、すべてが色あせた記憶として流れ去っていく。冷めきったコーヒーを出されたときのように、気持ちが妙にザラついた。 なぜにわざわざ人口に膾炙(かいしゃ)したわけでもない「武漢風邪」を用いなければならないのか。あえてそうすることで、差別や偏見を喚起したかったのか。それが社会に亀裂をもたらすものだという想像力もないのか。 ”非常時”とされるときこそ、日ごろから何を見てきたのか、ど
![「ポストコロナ」をすさんだ「差別」の時代にしないために(安田浩一)](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/3e01b5d036dfb213356bd5ab7eea5d538ebb9df1/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fs3-ap-northeast-1.amazonaws.com%2Fimg.imidas.jp%2Ftopics%2Fwp-content%2Fuploads%2F2020%2F06%2F11124207%2FF-40-211-1.jpg)