刑務所といえば犯罪者が収監される場所、厳しい規律もあるし、どちらかといえば怖いところというイメージがあるが......。ある刑務所には、認知症の高齢者や身体の不自由な人やオカマばかりが集められているという。栃木県にある黒羽刑務所第16工場だ。『名もなき受刑者たちへ』の著者・本間龍はここで"用務者"という懲役労働に従事した。 認知症高齢者や障害者は、健常者と同じスピードで同じ作業をこなせないことから"作業不適格者"と呼ばれる。日常生活でも突発的な事態が発生しがちだ。そこで、彼らをお世話する用務者の登場となる。本間氏は普通に生活していればまず目にしない、「そんなバカな!」と思ってしまう光景を目の当たりにすることになる。例えばこんなことだ。 工場での刑務作業が始まったとき、手を上げている人がいた。本間氏が近寄って声をかけると彼は非常に困った顔でこう訊ねてきたのだ。「あの......私の名前はなん