佐藤春夫『田園の憂鬱』(岩波文庫)を読みました。以前は新潮文庫からも出ていましたが、残念ながら現在はどちらも絶版のようです。 詩と小説は同じく文章による芸術ですから、詩人であり、小説家でもあるという人は、それほど珍しくはありません。 しかしながら、そういう人が必ずしも詩的な雰囲気を持ちながら小説を書くとは限らないもので、たとえば島崎藤村などは、あまり詩的感性を感じさせない作風の作家と言えるだろうと思います。 小説というのは、いわゆる起承転結ですが、何かが起こって、それが展開していくことによって、はじめて成立するものです。こうなってこうなってこうなったと。つまりストーリーが大事なんですね。 一方、詩というのはストーリーは必要ではなく、花鳥風月など、その時々に自分の心を強く揺り動かす対象を、感性でとらえようとするものです。カメラのシャッターを切るのに近い感覚でしょうか。 ストーリーを必要とする