神田のさかを、あるいている。 どこからか、あまく、強い、沈丁花のかほりがする。 ぬかあめに ぬるゝ丁字の 香りなりけり 久保田万太郎 この早春の花は中国原産とされるが、秋の金木犀とならんで、格別に樹影や開花をみなくとも、どこからか風にのってやってくる芳醇なかほりを味わうだけでうれしくなる灌木である。 漢名では瑞香という。瑞香のままでよかったのではないかともおもったりもする。 和名の沈丁花は、沈香と丁字のかおりを合わせたものとも、香りは沈香で、花の形は丁字(丁子 Clove)に似るからだともいう。 駿河台での所用をおえて、帰路は「さいかちのさか」をたどることにした。 この坂道は、JR中央線の線路(水道橋-御茶ノ水)の南の脇を、東(水道橋方面)から西(御茶ノ水方面)へとくだる坂道である。坂の下は小栗坂と交じわり、白山通りをわたると水道橋駅東口にいたる。 右側は駿河台から神田川への切り通