たとえば精神病院の前を歩いていたらキチガイが逃げ出してきて、そいつに顔面を殴られたとする。これが屈辱かというと決して屈辱ではない。人によっては命の危険を感じてトラウマになるかもしれないが、屈辱ではないのである。世の中の大半の暴力は正常である。児童虐待でさえ正常である。扶養されなければ死んでしまう人間という生き物に生まれたからこそ、その御家庭に似付かわしい正常運転に隷従しなければならない。学校でもクラスの中で生かしてもらうためにカースト下位に甘んじることもあるわけだ。これはなかなか不思議であり、ジョックがナードを養っているわけではないので、動物本能の要素が大きいかもしれない。動物の群れでも分配(力に応じた分配)の観念はあるだろうから、生かされているのだ。精神病院のキチガイに殴られても、(巨大地震や飛行機事故に居合わせたような恐怖はあるにしても)人間的な屈辱でなさそうなのは、その暴力が、われわ