批判について、勇気について 小林秀雄は「搦手」(弱点)を攻めるのが「最も人生論的法則に適った軍略」だと述べている(「様々なる意匠」)。しかしこれは「軍略」にこそなれ「批判」ではない。批判はやはり正攻法でいくべきた。相手の核心を明晰につく。あげあしとりなど一切しない。それだけが批判という行為に意味をもたらす。 もっとも小林のこの言葉は微妙なニュアンスを持っている。というのも、小林にとって「搦手」とは、目に見える明かな弱点のことではなくて、「楽屋」を意味するからだ。舞台における失敗を批判するのではなく、それを可能にしている部分を批判すること。これは僕のいう「批判」に近いかもしれない。しかしここには違う感触があるように思える。 すでに小林秀雄について書いた箇所(小林秀雄「様々なる意匠」)でも述べたとおり、ある対象(現象)を認識のレベルで批判すること自体はまだ真の「批判」ではない。そこから先が