戦争には様々な側面がある。先の太平洋戦争は軍事力の戦いだけではない。互いに意思疎通ができない言語――日本語と英語のぶつかり合いでもあった。敵の暗号や通信を読み取り、ビラなどで兵士や市民に働きかけようにも相手言語が分かっていないとどうしようもない。 本書『太平洋戦争 日本語諜報戦――言語官の活躍と試練』(ちくま新書)は、そうした言語を巡る闘いを、主に連合軍サイドに照準を合わせて分析したものだ。 米陸軍では6000人が養成された 米国は20世紀初頭、日本が日露戦争に勝利したのを見て、アジアにおける日本のプレゼンスにいちだんと注意を払うようになった。独自に日本語が分かる要員の養成を始めている。しかし日本語はなかなか難しい、ということで進まない。1936年時点で、東京での3~4年の日本語教育を経験した米陸軍将校は約30人しかいなかったという。 そうこうするうちに日本はさらに軍事力を増強し、中国戦線