自らがかかわる組織内部の病巣を実名で公に指摘することほど、勇気のいることはないだろう。しかも告発調でなく、冷静な筆致で。 北田暁大氏責任編集の「思想地図」5号に寄せられた「『アメリカ化』する日本の政治学」は、若手政治学者による学会批判である。筆者は東大先端研特任准教授の菅原琢さん。1976年生まれ、『世論の曲解』(光文社新書)などで注目された計量政治学の新鋭だ。 「アメリカ化」とは、近年、政治学の若手のあいだで計量分析あるいは仮説検証型の研究が普及し、業績主義が進んだ現象を指す。これは、理念に傾きがちだとの指摘もあった日本の政治学を、一見、「科学」的にし、よいこと尽くしのようにみえる。が、現実は「もっと複雑」と菅原さんは書く。 ■粗製乱造・無難な研究を内部批判 たとえば、熾烈(しれつ)な論文投稿競争をしているのは、非正規の職にしかつけていない若手や院生が多い。そこでは論文の生産効率を