―某年某月某日、まだ寒い冬の日。ホームレスのAさんは、S区の公園に作った段ボールハウスで、寒さに震えながら夜をすごしていた。 この国の貧弱な福祉、貧困対策のせいで救いの手はわずかなボランティア団体からしか差し伸べられなかった。 「夜分におじゃまします」 1人の男が声を掛けてきた。こざっぱりしたジャンパーを着込んだ、一見地味そうな男だった。だいたいこういう人は、どこかのボランティア団体だと相場は決まっている。一食ぐらい、弁当でも手に入るかな…Aさんは思った。 「今日は冷えますね。あったかいもの…牛肉入りのなべでもたべませんか?そしてカップ酒も一杯ほど」 「鍋に酒??」 Aさんは驚いた。食事ならくれる団体はあるが、当然ながら、さまざまな悪影響のある酒をつけてくれるようなところはほとんどない。だからこそ、時には飲みたくてたまらなくなる。想像するだけでのどが鳴った。 「それはありがたい。ぜひ行くよ