実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 前回の記事で論じたように、サンデルによる能力主義批判の核心は、能力主義が人々の「心情」に与える影響についての議論にある。 生まれ落ちた環境のちがいや才能の有無などの「運」の要素を無いものとする能力主義では、ある人の成功はその人自身の能力と努力と意志が成せるものだと認識されて、ある人の失敗はその人自身の無能さや怠惰さが原因であると認識されてしまう。結果として、能力主義社会の勝者たちは驕りを抱き、敗者のことを侮蔑するようになる。そして、能力主義のロジックを内面化した敗者たちは屈辱を感じるようになるのだ……というのが、サンデルの主張のポイントだ。 とはいえ、『実力も運のうち』という本の面白いところは、批判対象である能力主義のロジックの魅力についても、ある程度までは説明されてい
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