「そういうのは20代に置いてくるものだろう」と、そいつは言った。 そいつは、高校のときからの親友で、とは言っても高校のときはロクに会話もしなかったが、高校を出てからなんとなく長く付き合っている。そいつは、出版社に勤めたりして、プライベートではアマチュアだがCDを出すぐらい音楽をやっていて、僕もときどきライブを見に行ったりする。僕のくだらない、いつまでたっても幼い話に、いつでも独自の視点から付き合ってくれる、大切にしたい友人の一人である。 お互い35歳になり、久しぶりに会って酒飲みながら話をするともなると、奮発してお寿司なんて食っちゃったりするのだが、放課後のガストで4時間も5時間もおかわり自由のカップスープと甘酸っぱい恋話で粘っていた俺たちが、気づけば遠くへ来たもんだと思う。あの頃の俺たちは、鍋の中のワカメをどれだけ多く掬うかに、情熱と空腹をかけていた。 労働と給料 自分を如何に高値で売る