作家・大崎善生が『パイロットフィッシュ』(角川書店)で吉川英治文学新人賞をとった時、(というかそれまではノンフィクション作家だった)私は『週刊朝日』の連載「受賞作を読む」でとりあげて、「村上春樹の亜流」と批判し、「村上春樹病」という見出しがついた。同誌発売日の夜、担当編集者から抗議の電話があった。「納得できない」と言う。「大崎さんのお母さんがあれを見て、お前どんな病気にかかったんだい、と言ってきたそうです」。はあ!?「他人を病気呼ばわりするのは人権侵害じゃないですか」。はあ!?「これまで、多くの新人賞で、これは村上春樹の亜流だといって受賞が退けられてきた。小谷野さんもご存知でしょう」「いえ、知りません」「えっ。・・・だから、村上春樹亜流だなどと言うこと自体が既に陳腐なことなんです」。はあ!? しばらくおとなしくこの編集者の意見を拝聴した後、「批評に対しては活字をもって当人が答えればいいこと