作家デビューから40年、一貫して女性の恋愛や友情、生き方を描いてきた唯川さんが、満を持して故郷・金沢を舞台に紡いだ最新作『おとこ川をんな川』が10月23日(水)、ついに刊行になりました。 昭和初年の金沢の花街を舞台に、芸妓として強く、しなやかに生きる女性たちの姿を描いた連作長篇です。 刊行に先立ち、本作の魅力を皆さんに感じていただくべく、本書収録の第2話「かそけき夢の音」の冒頭を無料公開します。 金沢はひがしの茶屋街、置屋「梅ふく」の芸妓・トンボはある日、同じ歳で双子のように生きてきた朱鷺(とき)から、カキツバタが咲く音を聞きに行かないか、と誘われる。なんでもその音を聞くと願い事が叶うというのだが……。 寝巻に着替え、布団に潜り込んだところで朱鷺が言った。 「なぁトンボ、カキツバタが咲く時、ポンって音がするって聞いたことある?」 とうに午前二時を回っている。 「うん、まあな」 「じゃあその