バイゾン BISON｜山中千尋（ろひちかなまや）
アメリカの小さな町にいる 人口1200人とホワイトボードに書いてあった 夏には観光客でいっぱいになるけれど 冬はまったく誰もいないらしい 宿泊先の名前はバイゾンという いくら探しても地図には出てこない バイゾンはどこですか？と聞くと それは建物じゃなくて動物の名前だよ！と言われた バイゾンとは水牛の呼び名らしい イギリス式の読み方だとバイソン 赤信号がなかなか青に変わらないので 止まっていると「行け」と車のライトが合図する ここの信号はしょっちゅう壊れている ちょっとした渋滞が起こっていたので ずっと前を見たらバッファローの群れが ゆっくり道路を渡っていった アパートの管理人に熊よけの辛子スプレーを渡されて驚く「使われてないから大丈夫。念のため」 試しに触ってみたけど全然動く様子がない 山登りの得意な知人に聞くと スプレーは慣れない人はやめた方が….. とやんわり止められた 古めかしいダイ
わたしが声を上げる理由｜山中千尋（ろひちかなまや）
わたしが声を上げ続けるきっかけになったのは若い友人からのメール。 「自衛隊に入ることになりました」 自衛隊の楽隊は世界最高峰レベル。 「すごいね！おめでとう！」 お祝いの返信をしたが、それきり。 その友人は「大学を卒業したら海外で勉強を続けて世界のいろんな場所で活躍したい、そのために頑張ってきたし、現地の学校も見学した」外国に行ったことも目をキラキラさせて話してくれていた。自衛隊の音楽隊に入りたいと一度も聞いたことがなかったので本当はとても驚いた。メールは短かった。 奨学金という多額の借金を抱え込んで学生は苦しんでいる。アルバイトで疲れ果てて授業が辛いなんて本末転倒だ。奨学金を返したくても音大生は就職が難しいことが多い。条件の悪い非正規雇用でも仕事があるだけ良い。練習を頑張っても、才能があっても、自分のやりたい音楽を続けることを諦める学生。音楽だけで生活することは困難なことは百も承知の、タ
ジャズのある風景｜山中千尋（ろひちかなまや）
「ジャズのある風景」は晶文社から出版された拙著のタイトル。いろんな媒体に書かせていただいた拙文をまとめて頂いた大切な本だ。憧れの晶文社から出版された本を両親に渡すと、父には「こんなひどいことばかり書いて」とたしなめられ「文字がいっぱいで読みづらい」と母から嘆かれた。確かに「ジャズのある風景」の文章は書きたい放題で、文字がいっぱいだ。以降、私は本を出版していない。何度かお話をいただいても、自分のせいで頓挫してしまう。ピアノを弾くときには全く機能しない自意識が、文章を書くときには過剰になってしまうせいだ。あーでもない。こーでもない。そう言っているうちに、ただ漠然と10年以上。無駄に年を重ねている。 散々悪口を書いていた頑固で身勝手なジャズ評論もいつの間にか「みんな違ってみんな良い」時代にすっかり適応している。決してコンプライアンスが悪いのではない。ジャズも芸術になり、ジャズ論は難解な音楽論とた
死んだ男の残したものは｜山中千尋（ろひちかなまや）
戦禍が続いています。 殺人は最も重い罪なのに 国が命を奪うことは正しいとされる 争いは恨みしか残さない そしてまた戦争が始まる 正義の名のもとに続く殺戮を 黙って見ているしかないもどかしさ わたしもきっと戦争に加担している一人 毎日を生きていくのに精いっぱいと言い訳して ごめんなさい 本当にごめんなさい どうか生きのびてください 平和のためとうそぶいて 戦争させる愚かしさから どうか逃げきってください 生きて不甲斐ないわたしを どうぞ激しくなじってください わたしは今日も祈ります でも神さまなんかに頼らない 神さまだって戦争のもとだもの 教えを守らない人間が悪い？ そうですね 人間にでっちあげられた あなたたちも たがいに殺しあっていた 戦争いらない 戦争はもうたくさん 戦争に強く反対します 生きとし生けるものの 輝く今日と続く明日のために 政治の加害者も被害者もつくらないために みなさん
出るとこ｜山中千尋（ろひちかなまや）
最近は、カフェやレストランがある美術館が多い。美術館のカフェはおしゃれで、混みすぎていなくて、和やかな雰囲気。 女性客が大半。会話を楽しんでいる。 美意識が高く、おしゃれ人ばかり。 そんな空間にくっきりと聞こえてきたのは、 わたしの愛する西の言葉たち。 隣のテーブルで会話が弾んでいる。 A: 孫にお見合いの話が来たんよ B:あんたのお孫さん、シュッとしたイケメンで３高やからね。どんな人？ A:もうびっくりよ。写真見たらめちゃくちゃべっぴんさんやねん。ま、写真は簡単に修正できるから本物はわからんけどな。聞いたら穏やかで優しい人で、仕事もできる。おまけに立派に出るとこ出てんねん。 B:ええ人やないの。ボン・キュッ・ボン、やね。 昔のあたしみたい。冗談やて。 結婚したら美男美女カップルやね。お見合い上手くいくよう天神さんにお参りするわ A:いや。うちの子には絶対無理。ボン・キュッ・ボンの出てるや
どこ見てるの？｜山中千尋（ろひちかなまや）
東京の美術館と大阪の美術館では、鑑賞するお客様の温度がまるで違う。 東京の展覧会は満員電車みたいに混んでいるのに、朝の通勤時みたいにしーんとしている。 時々ひそひそ声がする。虫が枯葉の上を這っているような音量だから、何を言っているのかわからない。面白いことは(たぶん)話していない気がする。 その点、大阪の展覧会は賑やかだ。元気な人多数。新世界みたい。ドヴォルザークの新世界じゃなくて、通天閣が見えるほう。ボケとツッコミが勝負している。関西DNAすごい。 モジリアーニ展では、肩パッドの入ったボディコン女性とちょい悪をやや通り越した感じのバブリーな大人カップルが作品の前で大声で話していた。 「このモジなんとかて人、昼間からカフェでくだまいてて、何もせんとあんたみたいやな」 「俺もこの人もインスピレーションが降りてくるのを待っとんねん！それが芸術家いうもんや」 「あんた大したアーティスト様やね。チ
隔離生活です。｜山中千尋（ろひちかなまや）
皆さま、今回は国外でコロナ陽性になり、大変ご心配をおかけしましたこと、ほんとうに申し訳ございません。コロナになってみて初めて、この感染症の厄介さを実感しております。3回の接種もいたしましたが、陽性になってしまいました。検査所から送られてきたメールに「positive」と書いてあったときには、戸惑いました。コンサートのキャンセルは仕方ありません。お客様が感染されるようなことは絶対にあってはならないからです。 スイスで隔離生活と療養ができるのは、不幸中の幸いでした。写真は私が隔離生活を送っている、ホテルの部屋です。ホテルオーナーのマリアンさん、ハンスさん、ベニーさんはじめ、スタッフ皆様が大変良くして下さいます。万が一重症化しても、病院は75%空いているそうなので、安心です。保健所の対応といい、改めてスイスの豊かさを感じました。ベルンの街では誰もが親切で礼儀正しいことに驚きます。そして誰もがとて
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南回り｜山中千尋（ろひちかなまや）