死因の人類史 アンドリュー・ドイグ 著 秋山勝 訳 有史以来のさまざまな死因とその変化の実相を 科学的・歴史的・社会的視点から検証した壮大な “死” の人類史。 14世紀イタリア・シエナ、黒死病が覆いつくす(本文より) 1347年、当時、シエナは中央イタリアでも屈指の豊かさを誇った都市国家のひとつで、町の繁栄は金融業と羊毛業、そして強固な軍隊によって支えられていた。 靴職人で徴税人でもあったアニョーロ・ディ・トゥーラは、1300年から1351年にかけてシエナの町で何が起きていたのかを記した年代記を書き残している。 1348年1月、ピサの港からイタリア中部のトスカーナ地方に波及した黒死病(ペスト)は、2カ月後にはピサからフィレンツェに伝わり、そこから南下してシエナにまで広がった。ディ・トゥーラは次のように書いている。 「5月になると、シエナでも大勢の人間が亡くなった。凄惨を極めた恐ろしい光景
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