今年夏の大雨で、中国では深刻な洪水が発生した。各地で住宅や農地が水没し、死者、行方不明者は200人を超え、被害総額は数兆円に上るとみられる。 中国のSNSなどでは、今回の水害は「人災だ」との声がある。それはこの夏の洪水で水没し、大きな被害が出た地域は、より重要な都市を洪水から守るために犠牲にされたのではないかとの見方があるからだ。 中国での洪水対策では、「捨小家、顧大家」(小を捨てて、大を守る)という言い方がしばしば出てくる。河川の増水時、一定の地域を緊急の遊水地として使い、計画的に水没させることで、下流域の洪水を防ぐ。つまり相対的に重要度が低いと想定される地域を犠牲にして、より重要な都市を守る――という考え方だ。 この考え方には一種の合理性が存在する。こういう「割り切った」政策を実行できることが中国社会の強みという面もある。しかし、経済成長で人々の暮らしが豊かになり、住民の権利意識も高ま