序 透明な地獄は美しい。 そんな冒頭から始まる詩は、 思春期の自分を端的に現している。 そしてそれは現在をつくり変えるちからをもつ。 知ることは変わるちからを獲得することだと彼女は言ったが、 いまだに私は、過去を忘れることはおろか、 自分自身さえ変えることができずにいるのだ。 1 東大ラノベ作家の悲劇ができるまで 或る暮れ方のことである。 一人の高学歴ワーキングプアが、赤門の前で、雨止みを待っていた。 広い門の下には、この男のほかに誰もいない。 何故かというと、この二三年、東京には、出版不況とか就職難とか小説離れという災いが続いて起こった。「恥の多い人生を送ってまいりました」そんな書き置きを残して男は玉川上水に――いや、もう止めよう。パクリは止めよう。 私は文字のちからを信じている。 二十一世紀にこんなことを言うと、コンテンツの主流ジャンルはおろか、文学の内部にいる人間からさえ、疑惑と嘲笑
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