夏の琵琶湖はボストンの薫り。 あれはもう10年ほど前のことになるのだろうか。滋賀県南西部にある栗東市。JRAのトレセンがある馬の町に所用で立ち寄った私は、その帰りの途上に妙に気になる店を目にした。 “ステーキキッチン ボストンコモン” その店がボストンの中心地にある公園の名を冠しており、ステーキ“ハウス”ではなく“キッチン”を名乗っていること。そしてその落ち着いた雰囲気の店構えから、地元の人に愛される家庭的なステーキ屋さんであることはすぐにわかった。 その一方で“馬の町で牛を出す”。そんなうっすらとした反骨精神みたいなものに興味をそそられたのかもしれない。魅入られるように敷居を跨いだ瞬間、私は目を疑った。オールドアメリカの空気が漂う店内に、ただひとつ空気を拒絶するかのようにぶらさがるホッシーの人形。それは地元の人々には単なるヒトデの干物のぬいぐるみにしか見えないのだが、ある共通の思想を持つ