<この国はどこへ行こうとしているのか> ◇既得権益を絶て 2004年の元日。一念発起して、ペンを執った。生命の誕生を支える医療分野が社会で孤立し、国からも見放されている気がしたからだ。 周産期医療の過酷な現実を世に訴えるため、岡井崇さん(62)は産婦人科が舞台の小説「ノーフォールト」を3年かけて書き上げた。文学青年だったわけでもなく、専門用語が並ぶ医学論文のほか文章を書いた経験もない。思い切った行動は、追い詰められた末の最終手段だった。 「当時は最悪だった。産婦人科への入局者は減り続け、若い医師の当直回数は増えていく。00年から産婦人科医は3割ほど減った。それまでに手は尽くしたんですよ」 厚生労働省には、医師不足の現状や対策を記した文書を提出した。「それでは駄目だったし、社会に影響力のある訴え方でないといけないと思って。メディアも本気で取り上げてくれない。悪循環に突入し、先が見えなかった」