「1つだけ選ぶのは難しい」。そう言う高井啓明氏の口からは、国内外の13施設の名前が飛び出した。「いずれも建物そのものだけではなく、周辺環境や社会性、精神性などを踏まえて選んだ。環境負荷が少ないことや技術・性能だけではなく、建築空間や環境に魅力があり、利用する人たちに影響を与え、人々の記憶に残ることが大切だからだ」と高井氏。 高井氏が列挙した建物のうち、「つい最近、体感する機会があった」のが聴竹居だ。「約80年を経た藤井厚二の実験住宅。自然素材で構成された内外装の風合いに加え、気候風土に適応するデザインがある。光や風、外部の自然の変化を感じ、身体感覚が取り戻され、ずっと座っていたい気分になった。現代の住宅や建築が失ったものがある」(高井氏)。 京都・大山崎に建設された聴竹居。1928年に完成した木造平屋建ての実験住宅で、竹中工務店設計部の基礎を築いた藤井厚二が設計を担った。藤井はこの実験住宅