社会的に関心が高まっている「8050問題」。暗い側面ばかりが指摘される一方で、地域の支えを受けて自立へ踏み出す人もいる。23歳から23年間、精神病院に入院し、現在は90歳の母親と二人暮らしをしている男性も、その一人だ。グループホームから地域の就労支援事業所を経て、53歳で初めて「就職」という夢を叶え、働き続けている。 【写真】真新しいスーツに身を包んだ男性。「働くのは楽しい」と晴れやかな笑顔を浮かべた ■阪神・淡路大震災「覚えていない」 さっぱりと短く整えた髪に、ユニフォーム姿。男性は毎朝必ず、定時の1時間前には出勤し、埃取り用のワイパーとふきん、掃除機を手に、病院内の医師控室などを隅から隅まで丁寧に掃除していく。今、55歳。「やっぱり張り合いがあるね。(働くのは)楽しい」と、ゆっくりとした口調でほほ笑む。その表情はとても晴れやかだ。 かつては音楽少年だった。中学校でフォークギターを始め、