米澤穂信『氷菓』と一連の作品をこのところ読んでいて、思うところあったので、書いておきます。 ベナレス。ニューデリー。イスタンブール。プリシュティナ。サラエヴォ。これらの都市に共通点はあるだろうか。少なくとも、ひとつ、ある。それは米澤穂信『氷菓』において、語り手である折木奉太郎の姉、折木供恵が旅したと思しき場所である、という共通点が。 『氷菓』、およびそれに続く所謂〈古典部〉シリーズにおいて、語り手たちは架空の街、神山市――岐阜は飛騨高山がモデルだと考えられる――およびその周辺から出ることはない。彼らの移動手段は専ら徒歩か自転車であり、否応なしに神山市の「外」へ続いていくことを想起させる線路や電車はテクストから排除されている。 短編「正体見たり」において、温泉街に合宿に行く一行が乗るのはバス。アニメにおいてこの短編は、岐阜長野県境の平湯温泉を舞台のモデルとして語られていて、もしそうだとすれば