小林多喜二の『蟹工船』がブームになっているとよく言われるが、私の行きつけの書店では特に平積みになってもいないし、実際に最近初めて読んだという同世代の声も聞かない。「中央」と「地方」の相違なのかもしれないが、正直なところ今の若者が「あの」文体をすらすらと読めるのか疑問だし、専らイメージだけが独り歩きしている可能性もあるのではないか、というのは穿ち過ぎだろうか。 本当に「氷河期世代」でブームになっているとすれば、あまりにも悲痛である。労働法制と言えば工場法くらいしかなく、労働運動は治安警察法や治安維持法などで厳しく制限され、労働争議の鎮圧に軍隊が出動するような『蟹工船』の時代と、労働基準法も労働組合法もある現在の労働環境が同じであるというのは、いかにこの国の労働行政や労働運動が貧弱であるかを実証しているようなものだ。 確かに『蟹工船』が提示する経済構造は現在の「ルールなき資本主義」の状況とクロ