沖縄には、「風かたか」という言葉がある。「かじかたか」と読み、暴風を防ぐ風よけという意味がある。 沖縄の歌手古謝美佐子の「童神(わらびがみ)(天の子守歌)」は「風(かじ)かたかなとてぃ 産子(なしぐわ)花咲かさ」と歌う。「生きていくなかでは、雨も風も吹くだろう。どうか私が風よけとなりますように。生まれてきたこの子の花を咲かせてあげられますように」。確かにそうだ。暴風から守る手のひらがあれば、花は開く。どんなに吹き荒れる暴風であっても、重なりあう手のひらがあれば、そこで花々は咲き開く。 あの子の家で暴風を受けていたのは、まず母親である。暴力を受けながら次女を生み落としたあと、繰り返される暴力が今度は娘に及ぶかもしれないと、自分の母親や医師に、彼女は何度も訴えている。このときまでは、母親は娘の風かたかになろうとしたのだろう。でも彼女自身の声を聞き取るものはその母親、つまり祖母以外は誰もいない。