今週のお題「恋バナ」 俺にだって、辞書ではなく、暮らしの中で覚えたことばというのが1つや2つある。まあ、身に染みたという意味では、1つかな。 水入らずである。 * 高校生のとき(1989-90頃)だったと思う。 土曜か、日曜かに、お袋が買い物に出かけようとしていた。 俺は和室で、ばあさんとこたつで温まっている。じいさんは、買い物ついでに病院に連れていかれるので、一足先に車に乗っている。俺は、みかんや、煎餅や、お茶や、それから英単語集を用意して、肩をたたいてやる準備をする。家にはほかに誰もいない。ばあさんの様子を見守る全権を預かる。なんとも、いいものである。 と、お袋が障子をあけて、俺とばあさんの様子を見るなり、冷静な口調で、 「今日は、水入らずね」 といった。 その、なんともいえず、女の情念というものをだな、わがお袋よ、息子に投げつけるかね、しかし。俺は背筋が凍ったよ。ばあさんはにこにこし