江戸幕府は幕府にとって都合の悪い本を発禁本として絶版にし、売買を禁止した。幕府による出版統制と検閲のシステムはいかにして確立され、発禁本とされた出版物にはどのようなものがあり、幕府の規制の中で近世の出版はどのような影響を受け、いかに発展したか、欲望と抑圧のせめぎあいを生々しくも鮮やかに描いた面白い本である。 幕府の出版統制令は軍記物の規制から始まった。江戸幕府が成立すると戦国時代を舞台にした様々な軍記物が出版されたが、現存する大名家の当主たちさらには徳川家を悪く書いたものも少なくなく、これらの規制が始められた。最も古い出版統制令は明暦三年(1657)三月、京都で出された触書で軍記物出版時の出版元報告を義務付けたものだったという。 八代将軍徳川吉宗の享保の改革で全国的な出版統制システムが確立する。風説・異説、好色本、武家の祖先に関わるもの、徳川家に関わるものなどの出版が禁じられ、本屋仲間が結