文:はくたく 今は家族が猫嫌いで猫を飼っていないわけだが、これまで猫を飼ったことがないわけではない。それどころか、学生時代のある時期から十年ほどは、俺の生活に猫を欠かしたことはなかった。 最初に飼った? のは学生寮に出入りしていた成猫であった。 巨大な雄の虎猫で、出会いはなんとも印象的なものだった。同じ棟の友人が、真夜中にそいつをぶら下げてやって来たのだ。 ● 「コイツが、窓からいきなり入ってきてな……引き取ってくれないか」 季節は初夏。蒸し暑い夜のことだったから、友人は窓全開で寝ていたらしい。 首の後ろを持たれてふて腐れているその猫の顔は、何度か見たことがある。近所を徘徊する雄猫の一匹だ。 食い物の臭いをかぎつければ、共用フロアはもちろん、室内にまでも図々しく入り込むヤツで、まるでお供えのように戸口に猫缶を出している学生も何人かいた。だから、そいつが窓から侵入してきたといっても、べつに驚